1 真夏の蝶のグチ

グラウンドからこの教室へと届く音は、あいかわらずアブラゼミのおちつかない鳴き声だけだ。こんな環境の中での授業など頭に入るわけがない、とわたしは思っている。実際にも、わたし自身の頭の中に現在の授業の内容なんて入っていない。
にもかかわらず、教室中には張りつめたような空気がながれていた。

いつもならばきっと、近い席同士でなかよく世間話をするであろうこのクラスの雰囲気が、今日だけは明らかに違っている。それもそのはずなのかもしれない。この教室内で授業をうけている生徒全員の視線は、あたらしく越してきた彼女の方へささるように向けられていた。彼女をみつめる生徒たちの目色は好奇心で溢れ出ているかのようだ。誰一人として、口を開こうとする者があらわれないのは、恐らくそのせいであろう。こういう暑苦しいときの授業こそ、教室中が話し声でつつまれていてほしいものなのだが。

なんて思っているわたしの視線だって当然その彼女にむけられていたのは事実だけれども。

その彼女の名はすこし風変わりであった。転入初日、つまり今日このクラスに新しく入ってきたわけだが、彼女の名前が黒板にかかれるやいなや、その名前を見て笑い出す男子があとをたたなかったくらいだ。なのに何故だろうか、あまり覚えやすいともいえないような名前だ。けれども彼女のひときわ目立つ容姿だけは、しっかりとわたしの頭の中にインプットされている。

彼女のどこか和を感じさせるような雰囲気とかなり整っているきれいな顔立ちはクラス中の男子をトリコにしているのではないだろうか。肌といえば、ほんのりと日に焼けていたが透き通っているかのように美しい美肌でもあった。見る限り、肩までのばされたまっすぐな黒髪は一つに束ねられていて、高い位置できっちりとポニーテールにされていた。

クラス中が黙って彼女をみつめているわけはきっと、その美しい容姿に男女関係なく釘付けになっていたからだ。

そう断言してしまっても過言ではないほど、彼女はきらめくような容姿をしていた。
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